「50歳を迎えても全速力で走れる」なぜデスマッチファイター・佐々木貴は戦い続けられるのか?【篁五郎】
◾️プロレスは人に元気と勇気を与えると被災地で教えられた
2020年に起きたコロナ禍。エンタメ業界は緊急事態宣言によって大きなダメージを受けた。もちろんプロレス界も例外ではない。開催を予定していた大会は軒並み中止。チケットは払い戻しになってしまい、フリーダムズも売り上げが大幅に減少した。
「あの時、無観客試合とかやっている団体さんはあったんですけど、僕の中では無観客はなかった。配信して収益を得るのはわかるんですけど、誰も見てないところでやるデスマッチは地獄だなって思ったんです」
当時、新日本プロレス、全日本プロレスといったメジャー団体は無観客試合を開いて生配信やPPVで収益を上げていた。お客さんを入れるとクラスターが起きる恐れがあったし、かといって興行をやらないと団体が潰れてしまうため、苦肉の策だったのは言うまでもない。それでも有観客での興行にこだわる佐々木はある行動に出る。
「再開するとしたら、何に気をつけたらいいんだ、コロナのクラスターを起こさないためにはどうしたらいいんだ、そういうのを東京都に問い合わせしたんです。向こうもいろいろ親身になって相談に乗ってくれたんですよね。それで今なら当たり前のソーシャルディスタンス取ってくれ、マスクしてください、声を出さないでください、手洗い消毒、検温はしっかりしてください、そういうのを全部アドバイスしてくれて、言われるがままにやったんです」
そして2020年6月10日、プロレス界では一番早く有観客での興行を再開。本来300人入る会場を上限92人にまで抑えての開催だった。収益は赤字であったが、佐々木は胸を張って取材陣へ答えた。
「プロレスを見たいというお客さまの声と、プロレスをやりたいという選手たちの声。この二つの要望を叶えてあげたい。その思いだけでした」
佐々木は、この時のことを振り返り「お金では買えない信頼を得られたかなと思います」と語った。
そして佐々木が、どうしても忘れられない出来事として挙げるのが東日本大震災である。故郷である岩手も大打撃を受けており、岩手はもちろん宮城や福島へ物資を届けたり、チャリティープロレスを通じて感じたことがあるという。
「被災地へ行くと食事は冷たいコンビニのおにぎりしか食べられなかったり、ずっと体育館の床の上に段ボール敷いたりしているせいか、うつむき加減の人が多かったんです。そこで僕らが『今からうどん作ります!みんな取りに来てください』と言うと来てくれるんですよ。リングがあると『今からプロレスやります。無料だから見ていってください』と言ったらすごく喜んでくれた。さっきまでうつむいていた人が、大きな声を出して応援してくれてすごく盛り上がったんです。その姿を見て『俺の仕事ってこれだ!」と思ったんです。
プロレスって、絶対に必要な仕事ではありませんよね。でも、なかったら心が豊かにならない。人をこんなにも元気づけたり、勇気づけたりしているんだなと。誇りに感じられました。
思い返してみると、日本にプロレスが来たのは戦争に負けて打ちひしがれた時ですよね。当時の日本人は力道山先生を見て、勇気づけられ、元気づけられた。規模は全然違うけど、力道山先生と同じことをさせてもらえたと思ったんです」
現在、佐々木は今年の元旦に起きた能登半島地震の募金活動も積極的に行っている。他にも熊本の震災や土石流被害にあった地域の支援活動もしているという。